ボート釣りにはアンカー(錨:いかり)が必需品です。船検にも必要なのですが、数多くのスタイルとサイズがあって選択に迷うところです。私の場合、ゴムボートで使用していた 6ポンド(約 3kg)のマッシュルーム型プラスチック・アンカーにアンカー・チェーンをつないで使用しています。
船検に先立ち、アンカー・ロープをスムーズに出し入れするための「三方ローラ」を製作しました。三方ローラは縦に並ぶ 2本のローラと横 1本のローラから構成されていて、縦向きローラ 2本の間にアンカー・ロープを通して使用します。アンカーによる停泊中は常にアンカー・ロープが通っていて、ボートの移動によるロープ摩耗を防ぎ、アンカー上げ下ろし時の抵抗も少なくしてくれます。購入すれば、1 〜 1.5万円のものですが、私のボートに合うものが少なく、思い切って自作することにしました。
私のボートはバウ・デッキ先端にブルワークがあり、少し立ち上がっていますので、これに合わせて階段状の三方ローラ・ベースを 5mmのステンレス板で作成しました。その先端に水道用塩ビパイプをローラの代用として取り付けています。ローラは中心に 12mmのステンレス・ボルト、その外側に外径 18mm(内径 12.6mm)と外径 26mm(内径 20mm)の水道用塩ビパイプを二重に差し込み、一応ローラとしての体裁を整えました。この廃品利用のローラは規格品の組み合わせなので、寸法的に少々ガタがあります。いずれはキチンとしたローラーを作ろうと思ってはいますが、今までこれと言ったトラブルもなく使用感も結構良いので、現在は壊れるまで使うつもりでいます。
三方ローラ・ベースのバウ・デッキへの取付けは、FRPの肉厚がそれ程無いので、大きめの「裏当て」を当て、 8mmのステンレス・ボルト 4本で固定しています。三方ローラは結構大きな力が掛かりますから、取付け強度には十分配慮する必要があります。
三方ローラを作ったのは、ボートを購入して間もない頃でした。まだ意気込みも盛んでしたので、硬いステンレス板を折り曲げたり溶接を駆使してなんとか作り上げました。今となっては「良くやったな...」という感慨は残るのですが、市販品と比べて割が合うかどうかは少し疑問が残ります。
冒頭で述べたように、アンカーの種類は豊富で選択に迷います。ボートを購入したボートやさんから YAMAHAの 5kgダンフォース型アンカーを頂いたのですが、ミニ・ボートには少し大きめなので、以前ゴムボートで使用していた 6lbsのマッシュルーム型プラスチック・アンカーを使用することにしました。アンカーのホールディング・パワー(holding power:把駐力)はアンカーの重さだけで決まるものではなく、小型のアンカーでも効果的にホールドすれば十分使えます。
私の場合、プラスチック・アンカーの上に 8mmのステンレス・チェーンを 2mつないで使用しています。ホールドが難しい砂地でも、チェーン部分がアンカー頭部を横に引きますから、アンカーは倒れ、下部は必ず食い込みます。ミニ・ボートなら、これで十分なホールドが得られると思います。今までかなり流れのある場所で使用してきましたが、ほとんど走錨の経験はありません。反対に、マッシュルーム型は下側にロープを取り付ける部分がないので、岩場で引っかかって、なかなか外せないことは何度かありました。
メインのアンカーはプラスチック・アンカーを使用していますが、停泊中や潮が速いときは、アフタにもう一つアンカーを打つことがあります(双錨といいます)。この場合は写真のような、これもゴムボート用の 5kg 鉛製スパイク・アンカーに 6mmのステンレス・チェーンをつないだものを使用しています。スロープなどに停泊させておくとき、フォアはスロープ付属の金具に、アフタはこのスパイク・アンカーを入れておくと、風や寄せ波でボートが横になることがありません。
参考までに、小型船舶安全規則等に示されているアンカーおよびアンカー・ロープ(アンカー索)の基準を示しておきます。長さについて、フィッシング用は「掛かり釣り」用途などに長めが必要で、水深の2〜3倍程度用意しておきます。
ボートの全長(m) | アンカー | アンカー・ロープ | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
重量(kg) | 直径(mm) | 長さ(m) | ||||
ダンフォース | 日本型 | マニラ麻 | ナイロン、 ポリエステル | ビニロン、 ポリエチレン | ||
3未満 | 2.5 | 6.0 | 9 | 6 | 7 | 30 |
3以上〜4未満 | 3.0 | 8.0 | 10 | 7 | 8 | 30 |
4〃〜6〃 | 3.5 | 11.5 | 11 | 8 | 9 | 40 |
ロープの材質は色々ありますが、実際には販売店が提供している材質のロープをそのまま購入することが多いでしょう。ナイロン系が一番多いと思いますが、各材質ごとの特徴を表にまとめましたので参考にしてください。編み方は 3打、8打、16打がありますが、アンカー用としては 3打、8打が多く用いられています。 3打は伸び率が大きくショック吸収性は高いのですが、キンク(コイル状のロープを引き延ばしたときに出来る輪を無理に引っ張って出来たこぶ状の形くずれを言い、ロープを痛め強度を低下させる)が出来やすい欠点があります。 8打はキンクが出来にくく取扱いは楽ですが、伸び率が 3打より小さくショック吸収性が劣ります。
探せば選択肢は多くあると思いますが、私の場合は販売店から勧められたアンカー・ロープ(ナイロン、3打、10mm、係船索も同じもの)をそのまま使用しています。
材質 | 比重 | 特徴 | 欠点 |
---|---|---|---|
マニラ麻 | 1.45 | 化学繊維以前は よく使われた | 化学繊維より強度が低い 腐ることがある |
ナイロン | 1.14 | 柔らかく強度に優れる | 伸び縮みが大きい |
ポリエステル (テトロン) | 1.38 | ナイロンに似るが重い 硬化しにくい | 比重の分価格高い |
ビニロン (クレモナ) | 1.30 | 綿糸に似た触感 | 水濡れと乾燥の 繰り返しで硬化 |
ポリエチレン (ハイゼックス) | 0.95 | 軽くて水に浮く 価格が安い | 熱に弱く繊維が硬い 表面がツルツルして 滑りやすい |
ポリプロピレン | 0.91 | 比重が小さく水に強い | 紫外線に弱い (近年は改善) |
綿 | 1.54 | 触感が良く扱いやすい | 価格が高く希少 腐ることがある |
アンカー用ロープには 10mmの 3打ロープを使用しました。アンカー・ロープに限らず、係船ロープなども末端処理をキチンとしておくと、見栄えも良く信頼性も増します。ここでは、ロープ末端処理の基本になる「バック・スプライス(back splice)」を解説します。
splice(スプライス)には「接着」「接合」「接続」などの意味があります。back splice(バック・スプライス)はロープの先端をホイップ(whip:糸など止める)しないで、ロープ先端から元に向かって編み込む末端処理の方法です。編み込む方法は他の末端処理に応用できますので、バック・スプライス一つを確実にマスターすると良いと思います。解説は 3打(三撚)ロープで行っています。なお、ロープ先端はそのままだと解れてくるので、先をセロハンテープで巻き、ライターであぶって解れ止めをしておきます。
以上のバック・スプライスを覚えると、先端に輪を作ったり、シンブル(thimble)を挿入するアイ・スプライス(eye splice)、2本のロープを先端で結合するショート・スプライス(short splice)などに応用できます。写真は左から 1. バック・スプライス、2. アイ・スプライス、3. シンブル入りアイ・スプライス、4. ショート・スプライスの見本です。このページではバック・スプライスのみ説明していますが、ロープの途中から編み込むアイ・スプライスは若干のコツが必要です。上手に絵が描けなかったので説明は省略(手抜き(^^;)です)しますが、 漁網のページ(さつま加工) などを参考にされると良いと思います。
次に連結金具について、写真の一番左がシンブル(thimble)です。ワイヤ・コースとして市販されている場合もあります。アイ・スプライスでシンブルを取り付けると、ロープが金属と擦れることが無くなり、ロープの強度や耐久性が大幅に向上します。シンブルを使ってアンカーやアンカー・チェーンと連結するときに使うのが、写真右から順に、1. クイック・リンク、2. シャックル、3. アンカー・シャックルです。
アンカー・ロープは10mmの3打ナイロン索 100mを使用しています。フィッシング用としてはこれ位必要なのですが、結構かさばるので小さなボートでの格納方法はなかなか難しいものです。色々試してみて最終的に落ち着いたのが現在の「脱衣かご」方式です。15〜16フィートを越えると船内スペースもずーっと広くなり、場合によってはバウにアンカー・ロッカーがあるので気に掛かる点ではないと思いますが、12フィート・ボートでは自由な釣り座を確保することが最優先となり、アンカー・ロープの格納場所にも気を遣います。
最初に使った格納方法が実は現在の「脱衣かご」方式ですが、その後、「スーパーの買い物かご」→「水道のホース・リール」→「座椅子兼用のツール・ボックス」→「現在の脱衣かご」へと変遷しています。「脱衣かご」方式の良いところは、@ 釣り座を確保するため自由に移動できる、A 雨や水洗によって水が溜まることがない、B ロープ全体の容積とさほど変わらなくコンパクト、C ロープをコイル状に格納しやすいなどの特徴があります。
サブ・アンカーはロープが20m程しかないので、台所の「食器かご」を利用しました。こちらの方は最初から同じ方法で格納しています。コンパクトさと移動の自由さはメイン・アンカーと同じです。
アンカーやアンカー・ロープは海水中で使いますから、そのままにしておくと腐食、劣化が進みます。また、海域によってはひどく汚れる場合もあります。消耗品と割り切ればそのままで構いませんが、少ない小遣いから買いそろえた備品は出来るだけ長く使いたいものです。
私の場合、釣行から帰って出来るだけ早く、ボートや釣具を洗っている時間(1〜1.5時間)に、アンカーと使用した部分までのアンカー・ロープを真水に浸けて塩抜きをしています。塩抜きが終わったアンカー・ロープは元通り「脱衣かご」に巻き入れ、かごごとボート内に置いて乾燥させておきます。次の釣行までには十分乾いており、そのまま快適に使用できます。
根掛かりしてアンカーを失いました。根掛かりに強いロック・アンカーを見よう見まねで製作。
2002年 4月の釣行で、先に紹介した「マッシュルーム型プラスチック・アンカー」を根掛かりで失いました。岩礁帯で風が強かったため、完全にロックされたためです。このような岩場では、根掛かりしたときに外しやすく、しかも手軽にアンカリングできるロック・アンカーが有効だという記事を「雑誌 Boat Club」(2000年8月号、舵社)の特集で読み、早速これを自作する事にしました。
上の写真が試作したロック・アンカーです。太いステンレス丸棒が無かったので、外径25mmのステンレス・パイプ 280mmにオモリ代わりの5mmステンレス丸棒を一杯詰め込み、上下を溶接で封印しました。上側にはステンレス・チェーンの半切りを溶接、下側にはUの字に曲げた 5mmステンレス丸棒製の爪を 4本溶接しています。4本の爪は傘のように開いており、これで岩に把駐します。根掛かりで取れなくなった場合、強い力で引くと爪が伸びて回収する事が出来ます。試作品の重量は約 1kgでした。
5mmの爪は少し細く心配していましたが、ミニ・ボートなら十分把駐するようです。また、岩礁帯以外に砂泥地(河口などの泥の多いところ)でも、ある程度の把駐力があるので、手軽にアンカリング出来る魅力は捨てがたいものです。アフト用にもう一個作って、これからは常用したいと考えています。
ロック・アンカーを整備したついでに、写真のようなチェーン・アンカーも備えました。10mmのステンレス・チェーン 2mを「ジャラジャラ」と引っ張るだけですが、流し釣りの速度調整、船体の方向安定に役立つようです。重さは約 3.5kgあります。
予備のロック・アンカーを製作するついでに、根掛かりしたときにさらに有効な改良版を製作。
前回はロック・アンカーを見よう見まねで作ったのですが、岩礁帯でアンカーが根掛かりしたときのことを考慮し、アンカー・チェーン先端をロック・アンカー爪の根本に取り付けられるよう改良しました。
アンカーが岩礁にロックしても、ロープを「しゃくったり」、ボートの位置を替えて引っぱると大抵外れてきます。この外し方にもコツが必要ですが、慣れてくると9割方は外すことが出来るものです。しかし、どうしても外せないという不安は付きまとうため、今回、最悪の場合はアンカー・チェーンとアンカーを仮止めしている細紐が切れ、アンカーを逆さに引っ張れるよう、チェーンを取り付けるフック・リングを上下に二つ取り付けました。写真のようにアンカー・チェーンの先端はアンカー爪の根本にあるフック・リングにシャックルで取り付けます。その後、アンカー・チェーンの数コマ上をアンカー上側のフック・リングに電線を束ねる細めの「タイ・バンド」で共締めします。「タイ・バンド」の代わりに細めの「タコ糸」などでも良いと思います。
今のところ、アンカーが回収できず強固に引っ張ったために「タイ・バンド」が切れたということはないのですが、万が一の場合はアンカーが回収できるという安心感はあります。しばらく、このアンカーを利用していきたいと思っています。
以上、アンカーとアンカー・ロープについて若干の体験をまとめてみました。この種の話題は、専門書が何冊も出ており、素人が解説をするとお叱りを受けそうですが、「このような例もある」程度にご覧いただけると幸いです。ご意見ありましたら、 info@aokids.jp までお願いします。
2002年 3月25日 初版 |
2003年 5月31日 改訂3 |
Copyright(C) AOKIDS All Right Reserved.
Boat & Fishing / AOKIDS Home Page |